就活初期にできるだけ幅広い業界・業種を理解するために、業界研究コンテンツを作りました。何故それが大事かに関しては以下の記事を参考にしてください。
この記事では旅行業界の中でも、就活生に人気の高い旅行会社の情報を以下の項目に沿って簡潔にまとめていますので活用してください。
Contents
コロナ禍で大打撃を受けた旅行業界
2020年初頭から新型コロナウイルスが全世界で蔓延したために、航空業界と並んで大打撃を受けたのが観光産業、そして旅行業界です。
日本の旅行会社も急激に業績が悪化し、大卒の新卒採用を中止又は凍結している企業が殆どでした。
就活で旅行会社を志望したくても、できないような状態が続いていましたが、ワクチン接種の加速によって、ワクチンパスポートを前提とした旅行が再開し、2023年5月からは、コロナがインフルエンザと同じ5類感染症になって、ほほ正常化したため、国内旅行需要、インバウンド需要が回復してきました。
円安の影響でアウトバウンド需要はまだコロナ前の状況までには戻っていませんが、今まで抑えられてきた旅行のリベンジ消費によってV字的な回復も期待できる状況になってきました。
旅行業界に拘りがあっても、旅行業界に絞って就活を組み立てるのはお勧めできませんが、周辺業界の研究にもなるため是非参考にしてみて下さい。
旅行会社の7つのポイントを押さえよう
- 旅行会社のビジネスモデルを理解しよう
- 旅行業界の現状と課題・未来
- 旅行会社にはどんな仕事があるのか、職種の情報
- 旅行会社に働く人のモチベ―ションは何か
- 旅行会社に向く人、向かない人は誰か
- 旅行業界の構造変化
- 国内大手旅行会社を取り巻く現況
旅行会社の現状と課題
コロナ禍で大打撃を受けた旅行業界の現状をデータでも把握しておこう
旅行業界は新型コロナウイルスによって大打撃を受けました。それを端的に示しているのが観光庁が発表している主要旅行取扱状況年度早慶のデータです。以下にデータサマリーをまとめておきます。
2020年度(令和2年度)主要旅行業者の旅行取扱状況年度総計(速報値:令和2年4月分~令和3年3月分)
- 海外旅 行の対前年度比は、97.7%減、対前々年度比は、97.9%減
- 外国人旅行の対前年度比は、96.0%減、対前々年度比は、96.1%減
- 国内旅 行の対前年度比は、63.1%減、対前々年度比は、66.1%減
- 総取扱 額の対前年度比は、78.4%減、対前々年度比は、80.3%減
前年は2020年1月~3月に新型コロナウイルスの影響を受けたため、前々年(2018年4月から2019年3月)に比して全体で10%のマイナスになっていました。前々年が新型コロナの影響を受けていない年度と考えてください。
この異常な状況をデータでも把握しておきましょう。
総取扱高
区分 | 取扱高(千円) | 構成比 | 対前年比 |
海外旅行 | 42,495,926 | 4.3% | 2.3% |
外国人旅行 | 9,099,145 | 0.9% | 4.0% |
国内旅行 | 948,138,715 | 94.8% | 36.9% |
合計 | 999,733,785 | 100% | 21.6% |
また上記の内、旅行商品ブラント(募集型企画旅行=パッケージツアーやパック旅行のことです)の取扱高は以下の結果でした。
旅行商品ブランド(募集型企画旅行)の取扱状況
区分 | 取扱高(千円) | 構成比 | 対前年比 | 対区分総扱高 | 対総扱高 |
海外旅行 | 73,264 | 0.0% | 0.0% | 0.2% | 0.0% |
外国人旅行 | 4,035 | 0.0% | 0.1% | 0.0% | 0.0% |
国内旅行 | 303,986,350 | 100.0% | 34.2% | 32.1% | 30.4% |
合計 | 304,063,649 | 100% | 23.7% | 30.4% | 30.4% |
上記の異常時のデータからは旅行業界のトレンドは分析できないため、この記事では敢えてコロナ禍前の状況をベースにして解説をします。
また旅行業界をどのアングルから見るか、はじめにこの記事のスタンスを決めておきます。この記事は就活生に人気の高い、JTBやHIS、KNT等の総合旅行会社を念頭に置いて分析、解説をすすめます。
インバウンド需要へのアプローチ
旅行業界全般で捉えると、就活生の皆さん現在が最も注目している話題は、訪日外光国人観光客の激増のニュースでしょう。確かに日本の観光業には大きなプラスになっているのは事実あり、政府、地方自治体、民間企業が知恵を絞って、訪日外光国人観光客の購買需要を吸収しようと必死です。
日本の旅行会社もそのトレンドをビジネスチャンスにしようと努力しています。それらの努力は重要ですが、旅行会社の収益・利益に対してはそれほど大きなインパクトを与えてはいません。
もちろん訪日外国人観光に特化した旅行会社は絶好機を向かえていますが、JTBをはじめとする日本の大手旅行会社のビジネスモデルを考えると、訪日外国人需要はビジネス全体に対してそれほど大きな影響は与えられないのです。
しかし成長分野であることは確かであり、今後も成長は続くと考えられているため、力を入れているというのが現状です。
パッケージ旅行の支出は旅前のアレンジで決まる
訪日外国人の消費は日本の高級ブランドや高品質の日用品の購入(=ショッピング)、外食や旅館(おもてなし)にとっては明らかにプラスに働いています。しかし日本の大手旅行会社がその恩恵にあずかっているかと言うと、必ずしもそうではありません。
その理由は大きく二つあります。一つは、外国人が利用するパッケージツアーは、全て外国の旅行会社が旅程を事前にアレンジするため、国内の大手旅行会社が介在する余地はほとんどないという点。国内のバス会社や宿泊施設、飲食店、土産物店、小売店は恩恵を受けますが、国内の旅行会社は代理店機能しかないため、必要性が殆どないのです。
パッケージツアーをビジネスにするためには、海外でのマーケティングが必要です。自力もしくは海外企業との提携により自社商品を販売する方法はありますが、常に厳しい価格競争があるため積極的に打って出れないという状況です。
もう一つは、日本の旅行会社の関与する部分が限定的になりがちな構造だからです。
外国人観光客でも、パッケージツアーではなく、自分自身で旅をアレンジする旅行客が増加しています。これらの顧客に関しては、限定的ではありますが日本の大手旅行会社もビジネスをしています。
旅慣れた旅行者の中には、日本語という大きな壁を破って、すべて独力で旅程をコーディネートできる人もいますが、そこまではできない旅行者は、日本国内の旅程を日本の旅行会社に委託する需要はあるのです。
更に日本国内に住んでいる外国人の国内、海外への旅行需要を取り込んでいます。大手各社ともこのセグメントはプラスに推移しています。特にHISは外国人の旅行需要の収益を大きく伸ばしています。現状、全体の業績へのインパクトはそれほど大きくはありませんが、確実に成長する需要なので今後は更に大事なビジネスになっていくでしょう。
ターゲットのニーズにとことん特化する
インターネットの普及によって、飛行機や宿泊などの手配をすべて自前で行う「セルフブッキング」が一般的になっています。旅行会社で旅をアレンジすることは、経済的ではない、合理性がないとの認識が広がっているのも事実です。
航空券などは自前で購入する人が増えた上、LCC(格安航空会社)はネット販売のみなので、格安運賃を追求する場合、旅行代理店を通すという選択肢が殆どないのが現状です。
旅行会社を使う理由は、パッケージツアーや、旅行会社の提供する商品やサービスの方が魅力的、効率的、経済的である場合か、個人で細かい手配をしなくて良い(したくない)、任せて安心と思える時、もしくはそう思う人を相手にビジネスする場合です。
旅行会社としてのブランド、信頼性、安心感と、色々細かいことを日本語で相談できる利便性、バルク販売による経済性が享受できることが旅行会社の強みなのです。
その強みを活かせる顧客層は、旅慣れていない層、シニア層、新婚旅行、家族旅行、団体旅行、コンベンションやイベント等の特殊な機会への参加者、また経済性より確実性が重視されるビジネス需要層、外国人等になります。
これらのターゲットニーズをとことん深堀してサービスを展開していく戦略は、今までも取り入れられてきました。シニア向けのツアーや、富裕層向けのビジネスクラスを利用するツアーなどはその典型です。
法人需要は利益の源泉
欧米の旅行会社の中には売上の9割はビジネス向けと完全にビジネス特化した旅行代理店もあります。
このようなビジネス特化型は、業務出張の多いグローバル企業と一括契約を結びバルクでのボリュームディスカウント契約を航空会社やグローバル・ホテルグループと結んで双方にメリットを創出することに存在意義があるのです。
JTBグループを例にとると、2016年に首都圏の法人事業を統合した新会社として「JTBコミュニケーションデザイン」を設立してビジネスターゲットへの注力を鮮明にしています。
グループの広告・プロモーション事業やイベント・コンベンション事業などを手掛けるJTBコミュニケーションズと、コンベンション、イベント、展示会、セミナーなどの企画、運営受託事業などを担うICSコンベンションデザイン、企業コンサルティングなどを展開するジェイティービーモチベーションズの3社を統合し、「ミーティング・コンベンション事業」、「広告・プロモーション事業」、「HR(人材)ソリューション事業」、「展示会事業」をワンストップで展開しています。
さらに新規事業として、他業種とのタイアップによる、エンターテイメントや文化コンテンツ、ライセンスなどの開発・マネジメントをおこなう「コンテンツ事業」や、施設運営・プロデュースを行う「エリアマネジメント事業」も展開しています。
このように自社で培ってきたノウハウを進化させることによって、他の旅行会社ではできないサービスを提供することも、コモディティ化したサービスから脱する有効な戦略なのです。
テーマツアー、新しいツアーの開発
2000年代後半から、ニューツーリーズムと呼ばれる体験型・交流型の観光が注目されてきました。
観光地に行くことより、そこでしかできないライフスタイルを体験したり、そこで開かれるワークショップに参加したり、学習するうプログラムを組み込んで従来のツアーとは異なる性格を持つものです。
独自の企画であれば競合もほとんどなく、価格競争も回避できる戦略です。ある程度お金を払っても、その価値を認めるターゲットにフォーカスし、個人だけではアレンジできない、OTAではアレンジできな旅行を提供することは合理的なマーケティングなのです。
自ら資産を所有して商品やサービスの独自性を売る
海外の大手旅行会社の一部は自ら航空路線やホテル、クルーズ会社などを保有し、その運営も行ってその資産を活用して他社が出来ない旅行サービスを提供してビジネスを行っています。
日本でもHISがハウステンボス(HTB)を所有、経営して成功している例もあります。
HISでは更にロボットによるサービスを行う「変なホテル」を2018年現在9施設を既に開業しており、今後首都圏に加え、大阪、京都、金沢、福岡の日本各都市と海外ではニューヨーク、トルコへ世界各国の旅行者をターゲットとしたホテルを開業する計画を立てています。
国内のホテルは主に訪日外国人観光客をターゲットにして、デジタルテクノロジーを駆使したサービスを行っていく計画です。またニューヨーク、トルコのホテルは、世界各国の旅行者、ビジネス、レジャー層と幅広い需要を、HISの旅行事業との大きなシナジー効果を発揮することを狙っています。
ターゲットのニーズへのフォーカス、一部代理店業から脱した形で、自社でリスクをとり、独自性と利益率を両立させるなど、日本の大手旅行会社も、変化に対応するための具体的な施策が始まっているのです。
テクノロジーによるイノベーション
日本大手旅行会社が既にグローバルで展開しているExpediaやTrivago、Booking.com、等に勝てる可能性は、残念ながらほとんどないと言ってよいでしょう。
これらの企業は圧倒的なグローバルな仕入、世界中のユーザーの口コミ、最新テクノロジーを活用したユーザビリティの進化と徹底的なコストダウンを武器に、既に世界の旅行市場を席巻しています。
日本のOTA(Online Travel Agent) 市場も一休、リクルートじゃらん、楽天モバイル、Yahooトラベルが先行して、JTBやHISが後追っている状況です。日本のOTA専業企業もグローバルOTAと激しい競争をしているのが現状のため、総合旅行代理手がこの分野で独自性を出して、シェアを獲得してくことは厳しいといってよいでしょう。
現在パッケージツアーを好んで買ってくれている高齢層も、徐々に代替わりしていきデジタルを使いこなせる高齢者層が増えていくことは明らかです。どの世代のデマンドを考えてもオンラインの強化は避けては通れない課題です。
新たな旅行販売への取り組みとして、コストのかかる店頭販売から、コールセンターと利用客がディスプレイを介してやり取りし、商品販売を行なうリモート接客の取り組みが今後益々重視されていくと考えられています。
デジタルと店舗的なサービスの融合であればTTA(Traditional Travel Agent)ビジネスの進化系として一定の支持を得られるでしょう。
現実にパッケージツアーの場合位、オンラインや電話で予約しても、最終的には店舗に行って詳細を確かめるツアー客も多いのです。また旅行先で何かあった場合の、現地での支店によるサービスや日本語ができるスタッフの対応など、TTAの強みを活かす戦略は理にかなっています。
特に新婚旅行や子供連れの海外旅行の場合は、オンラインや広告上の情報だけでは分からない、もしくは不安な点も多く、失敗できないた旅に対する需要は取り込めるでしょう。
VRによる疑似体験など、テクノロジーの進化は店頭でのサービス向上にも寄与します。オンライン上でのビックデータ分析による商品開発や、IoT技術を活用した移動や荷物に対するサービス、など、テクノロジーを使用したイノベーションは益々重要な課題になっています。
旅行以外のソリューション提供
JTBは2018年4月に新たなグループ体制に基づいた経営改革方針を発表しています。
そのコンセプトは、経営改革を「第3の創業」と位置付け、ビジネスモデルを大きく変えると宣言しています。旅行をつくって販売するといった従来の旅行業から、「個人」「法人」「地域」「国」といった顧客の課題解決を図るソリューション会社への転換を目指していくというものです。
その理由として、この記事でも取り上げてきた旅行業のウェブ化とOTAの台頭、民泊を含むシェアリングエコノミーなどの激しい環境の変化、競争の激化をあげています。
顧客の様々な課題の中に、旅行をソリューションの一つとして考えるという方針であり、パナソニック、ヤマトホールディングスと組んだ、訪日外国人旅行者向けの手ぶら観光支援サービス「LUGGAGE-FREE TRAVEL」(ラゲージ・フリー・トラベル)などの事業をその一例としてあげています。
JTBではこのサービスを組み込んだ訪日外国人向けツアー商品「サンライズツアー」を国内外のJTBグループ会社のほか、海外提携エージェント、OTAなどで販売を開始しています。
このように顧客の課題を解決するために、自社の強みを活かし、他企業とも協力してビジネスをつくっていくもので、今までのような旅行業だけの追求から、大きく発想を転換しています。
まとめ
国内の人口減少やOTA,グローバル企業との厳しい競争の中で、もはや旅行業の枠の中だけでは成長は難しい状況です。旅行業で培ってきたノウハウや強み、信用、ブランドを活かして事業をつくっていくフェーズにあると言えます。
今後、旅行業界を目指す皆さんは、旅行が好きで、旅行を核として考えるのは良いですが、もっと幅広い視点にたって、旅行業にできる事は何か、旅行会社がやると面白くなるものは何かという点も考えていってください。
それを考えるには業界や企業の事をもっと深く知らなければなりませんし、自然と知識や志望意欲を高めることができます。
自分の頭で考えてみる事はとても重要なことですし、面接の応答にも深みを与えることができます。旅行業界に興味を持った就活生の皆さんはぜひ、チャレンジしてみてください。
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